「ありがとう」と「すてき」

 ~園代表からのメッセージ~

 

 

<模倣と手本>の次の魔法の言葉

 
シュタイナー教育の基本理念に、一人一人の子どもの健全な自我を育てる、ということがあります。健全な自我?と一言で言っても抽象的でわかりませんよね。その子がその子らしく、育ちたがっている方向に伸ばしてあげる。大人になって社会に出てからもその自我が社会のひとつの役割にもなり、そのことがまたその子の誇りとなる・・・。という解釈もできるでしょうか?

 7歳までの子どもには言葉での説明よりも、プロセスや行為自体をみせる、大人の働く姿や暮らしの仕組み、自然界の流れを身体全体、五感(シュタイナーでいうと12感覚もあるのですが、これはまたのちほど・・)に働きかけるのがその時期の子どもの心身に負担なくスポンジにしみ込んでいく。その時の魔法の言葉は<模倣と手本>でした。

 私は、その後、子どもたちと保育室で過ごす中、もう二つの魔法の言葉があることを発見しました。それは「ありがとう」 と 「すてき」です。よく、叱らない子育てとか、ほめない子育てとか、育児本のタイトルに見かけますが、シュタイナー幼児教育の中では、いけないことをした時保育者はただ割って入ってもめごとを止める。やめさせたいときは「やめなさい」のただ一言。それ以上は説明をしません(と言っても、いつでもそれができるかどうかはまた別の問題)。その反対に子どもが何か為すべきことを為したり、どうしてもできなかったことにチャレンジしてできたときなどは「できたね!」としっかりと気持ちに寄り添って認めてあげる。「すごい~!上手~!」とか過度にはほめません。その言葉の中には多少なりとも評価が含まれているからです。出来不出来よりも、そのことをやったかやらなかったかが問題です。その行為を通過した時の何か。その何かが子どもの中に満足感として残ることが大切なのです。そしてその満足感を私たちも一緒に共有してあげる。それが子どもの中心線(自我)を太く確かなものにしていきます。

 保育の中では、お仕事というのも遊びと同等に大事です。仕事=遊び、遊び=仕事といってもいいくらいです。そして、私たち大人は一個の人間として子どもに<お仕事>をお願いします。例えば、テーブルを拭く、お手拭きを並べる・・など。そのお手伝いが終わったとき、真にそれを果たしてくれたことに対する畏敬の念をこめて「ありがとう!」と子どもに言います。その時に流れるやった行為の気持ちよさ、それを授受した双方気持ちの溶け合い、それがとても温かい空気となって周囲を覆います。それが一つの魔法の言葉「ありがとう!」です。

 
 そしてもう一つ、「すてき!」は、子どもが普段なかなか見せない、成長ぶりの様子やこちらが予期しないうれしい気遣いなどを見せてくれたとき、私から思わずでる言葉です。身だしなみ、特にお腹からシャツが飛び出ていたり、髪の毛がくしゃくしゃだったりすると、「ちょっとかっこよくしようか」と言って直してあげたりしますが、子どもにとってこのすてきとか、かっこよくとかいうのがただのほめ言葉ではなく何か自分の本質に響いてくるような神秘的で魅惑的な響きと意味合いを持つのではないか?と私は密かに分析しています。

 

 この夏のイギリス滞在で気づいたのですが、イギリス人はなんと“Lovely”という言葉を連発することか・・・♪10年前、ストラウドでただ細い通りを歩いているだけで向こうから歩いてきたかわいいお婆ちゃんに「Good Afternoon, my lovely !」なんて言われるんです。そして今回、バスに乗って乗車賃がちょうどあれば運転手が「Oh, lovely」
またその運転手に乗ってきた(常連の?)乗客がキャンディを差し出して「Lovely!」。
受け言葉の緩衝材かしら?と思うほど連発が目につきました。確かに言われると一瞬ふわっと気持ちが和むし、ほんとに言っているその人自身もLovelyに見えます。(ともあれ、イギリスの老紳士淑女はかわいらしい☆Lovelyっ!)

 子どもたちは、自分の果たした行為を認めてもらって「ありがとう!」と言われ、自分の発意でした行動を「すてき」と言ってもらったとき、どんな気持ちになるのでしょう。 
自己肯定感や自尊心が強まるでしょう。その言ってくれた相手との信頼感も強まるでしょう。みなさんもぜひ「ありがとう!」「すてき!」使ってみてください。ただ、使いすぎや当て込みすぎは禁物。心をこめて本当にprecious(得がたい) な瞬間に・・・。

                山本ひさの (ぎんのいずみ子ども園代表)

                                2010.5.26